戯曲の文字組みを考えてみる
こんちわ
ここのところ演劇にハマっていまして、週末になると小劇場をぶらぶらとまわり観劇しております。
そんなこともあってか、戯曲をよく読むようになりました。観劇後に、物販で上演台本を売っていたりすると、つい買ってしまいます。舞台は、公演が終わってしまえば、二度と見ることができないものがたくさんありますしね。すこしでも記憶にとどめておきたい、なんて思いもあって、購入してしまいます。
劇場で売っている上演台本というのは、だいたい、wordで編集し、レーザーカラープリンタで出力したようなものが多く、ちょっと読みにくいな……なんて思ったりもするのですが、まあ、稽古のために使うのが主な役割でしょうし、正式に出版しているものでもないので、仕方ないよねと思います。
最近見た舞台の関連で買ったもののなかに、出版され、流通もしている戯曲本があったのですが、その組版を見ていてちょっと気になったことがあったので(その本が、イいワルいではなく)、戯曲の文字組みについて書いてみようと思います。
とはいえ、私は実際に仕事で戯曲を組んだ経験はないので、見当違い、セオリー無視なことがあると思います。ご意見・ご指摘いただけますと、非常にありがたいです。
そもそも、戯曲ってどんな感じだろう
もちろん、編集方針によって文字組みのしかたはさまざまだと思いますが、手元にあるいくつかの戯曲本を見て、だいたいこんな感じで組まれているのではないか、という例を作ってみました(図1・図2)。
(作例は、役名「イワタゴシックオールドB」、台詞「イワタ明朝オールドM」にしています。キャプチャだからよくわからないですが、文字サイズは基本13Q。いわゆるベタ組みです。文章はテキトウに拵えました)
手元にあった戯曲の組みかたを見ていると、
- 図1のように、役名を版面の頭に揃えて、台詞を一定の場所で揃えた、突き出しインデントのように成っているもの。
- 図2のように、役名のあとにスペースを入れ、続けて台詞が続く。行を折り返したときにはインデントで字下げをしている。
タイプのものが多いようでした。
役名部分は、台詞部分より太めの書体にしていて、とくにゴシック体にしているものが多いようです。
本によって、おのおの差異があり、折り返した台詞部分のインデントが2字分のもの、段落行頭字下げなしのものもよくあります。台詞部分をすべて括弧で括っているものもあります。
そんなかで、図2あたりの体裁が、スタンダードな組みかたになるのではないのかな、と思いました。
- 役名=ゴシック書体
- 役名と台詞とあいだを全角1字アケ
- 台詞部分=1字分インデント、段落行頭1字下げ
ちなみに、縦組みのほうが一般的ですかね。
物販で買ったものなかに横組みのものもありましたが、台本として使うときはどちらのほうが読みやすいのでしょうかね。
実際に文字組みするときに
実際にInDesignで組むときの設定を考えてみました。
以下の手順が、比較的効率的な設定方法ではないかなと考えました。
前提:段落行頭字下げは、全角スペースを入れて行う(アキ量で段落行頭字下げをしない)。
- ①行頭から1字分インデント、1行目行頭インデント-1字分を設定。文字組みアキ量設定は、段落行頭に1字下げを設定したものを当てる※1。
-
②[正規表現スタイル]で役名に、ゴシックの書体、前後のアキ量《ベタ》を設定した文字スタイルをあてる。
正規表現パターン例※2) ^(権八|与兵ヱ|眠狂太郎)~(
かならず、役名のあとの全角スペース(「~(」=全角スペース)にもベタをあてておくこと。そうしないと、文字組みアキ量設定の影響を受けてしまい、行内に調整が必要となったときに字送りが変わってしまう。 -
③
図2の6行目のように、台詞部分で段落が変わったとき、行頭に1字下げを入れたい。
これを実現するために、[正規表現スタイル]で、行頭の全角スペースに、[前のアキ量]=自動、[後ろのアキ量]=ベタ、を設定した文字スタイルをあてる。これは、字下げぶんの全角スペースが、文字組みアキ量設定の影響を受けないようにするため。正規表現パターン例) ^~(
これで、
- 役名=ゴシック書体
- そのあと全角1字アケ
- 台詞部分=1字分インデント、段落行頭1字下げ
がひとつの段落スタイルで実現できます。
ゴシック体が大きくみえる
最初に書いていた、買った本の気になった部分というのは、次のようなところでした(図3)。
台詞部分の明朝体にくらべ、役名のゴシック体が大きめに見えるので調整しているのでしょう。役名の部分の文字サイズを、すこし小さめに組んでいました。
(ちなみに、図2は役名部分と台詞部分が同じサイズのままです。役名部分のゴシック体がすこし大きめにみえると思います。)
これはこれで、妥当な調整だと思うのですが、文字サイズを小さくしたことで、役名から始まる行が若干間延びしています(図4は図3を拡大したもの)。
本棚を探してみたら、岩波文庫の『かもめ』(チェーホフ、2010年1月15日 1刷、2012年5月25日 2刷のもの)もおなじように組まれていました。ほんのすこしなのですが、気になります(気になりませんか?)。
台詞部分の始まりの場所が、文字サイズの整数倍の位置にきていないんですね。
単純に文字サイズを変更するだけだと、その後の文字に影響が出て、1行目が間延びしてしまう。
これを解消する方法として、最初に思いついたのはタブを打って揃える手段なんですが、役名の字数は作品によってバラつきが出るし、設定が煩雑になりそう。タブを打つのも面倒臭そう……
それで、わりあい効率的に解消する方法を考えてみました。
[合成フォント]を作成。
名前の部分に指定したいフォントをベースにして、[特例文字]に役名で使われている文字を登録※3、文字の比率を縮小し、[文字の中心点から拡大]にチェックを入れる。
前述の作例③であてている文字スタイルに、制作した合成フォントを設定する。

で、できたのが図5。これなら、台詞部分の頭が揃います。
もちろん、文章を組んでいくうえでは、もっとたくさん調整する箇所が出てくるので、これだけで処理は済みません。
インデントをアレコレ計算するのが面倒臭かったりする(怠惰な私)ので、ひとつの段落スタイルで済めば、負担がすくなくなるかな、と思います。もっと単純なやりかたがあるかもしれません。
おわりに
本棚を調べてみたら、思っていたより戯曲の本がすくなかったので、ちょっと考察が甘い感じもしています。戯曲の組みかたについて、言及しているものがあれば読んでみたいです。
本を書く作家さんによってにも表記のクセが多いんですよね。台詞の間を表現するために句読点を連続させて、「、、、」や「。。。」とか表現したり、ダッシュで間を作って、さらに、ダッシュの前後にスペースを入れているものもあったりとか。あと、実際に演じるときには、同時に台詞を云ったり、途中からかぶせて台詞を云ったりする説明を入れていたりして。
イロイロ考えてみると、面白い分野かもしれないなと思います。せっかくだから、戯曲を組んでみたいなー。お仕事いただけないかなー。
初めてこういった記事をを書いてみて、説明するって難しいなと痛感しました。
言葉の選びかた、図版の作りかたが難しい……わかりにくい表現がたくさんあることと思います。ご容赦ください。
……それにしても、記事に一貫性のない、とりとめもないブログですね、ここ。
※1 段落行頭括弧、折返し行頭括弧の話はとりあえず措いておく。作例はいちおう、段落行頭括弧=見た目全角、折返し行頭括弧=天付き、で処理。ぶら下がりはなし。
※2 正規表現の書き方は色々あると思うのだが、今回のパターンは作例に会わせ、こんな感じに設定した。
※3 例のばあい、[権八与兵ヱ眠狂太郎]の9文字登録すれば事足りる。登場人物が多いときには、合成フォントの設定が煩雑になるかもしれないが、戯曲の登場人物は限られているので、さほど多くはならないだろう。
追記(というより、書いてて思ったこと)
図1のように、突き出しインデントのように組んだほうがスッキリしているようにみえたのですが、俳優さんが台詞を読むときには、図2のように2行目からは食い込んでいるほうが、どこからどこまでがそのひとの台詞なのか、判別しやすいのではないかと思いました。
インデントを2字分下げている本が結構あって、こちらのほうが一般的なのかな?とも感じました(図6)。
字数の多い役名がでてくるもの、行長が長いものは、2字下げのほうがいいかなとも思います。
このばあいの設定の仕方なのですが、前述の、手順①のインデント値を、行頭から2字分インデント、1行目行頭インデント-2字分に設定。さらに、③の文字スタイルに、[垂直比率]=150%を設定することで実現できます。
あと、ト書きについて触れていなかったなあ……
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